「自宅でビジネスを始めたい」「店舗と住居を一体化させてコストを抑えたい」と考える方が増える中、店舗併用住宅や店舗兼用住宅が注目されています。しかし、これらの用語はしばしば混同され、その違いを正しく理解していないケースが多いのが現状です。
今回は、店舗併用住宅と店舗兼用住宅の具体的な違いを解説し、建築基準法や用途地域の観点からも整理します。また、それぞれ生活スタイルに合わせたメリット・デメリットを考慮し、最適な選択をするためのポイントをご紹介します。
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店舗併用住宅と店舗兼用住宅の定義と違い
まず、店舗併用住宅と店舗兼用住宅の違いについて見ていきましょう。主に形態の違いがあります。
「形態」の違い
大きな違いとして、「住宅と店舗が建物内で行き来ができるか否か」が挙げられます。
- 店舗併用住宅:住居部分と店舗部分が独立しており、建物内での行き来は必須ではありません。居住部分と事業部分が分離されている点が特徴。
- 店舗兼用住宅:住居部分と店舗部分が構造的にも機能的にも一体化されており、用途上分離しがたいものとされています。建物内で行き来が可能な点が条件となります。
店舗併用住宅とは?
定義と特徴
店舗併用住宅とは、居住部分と店舗や事務所部分が一つの建物に融合した住宅形態です。基本的に、住居部分と店舗部分は独立しており、それぞれが別々に利用できる設計になっています。このため、プライバシーが保ちやすい点が特徴です。
住宅ローンへの影響
店舗併用住宅を購入する際、居住部分のスペースの比率が大きく占める場合に限り、住宅ローンが全額適用されるケースがあります。それ以下の場合、事業用ローンの併用が必要になる可能性があるため、事前に設計士や金融機関とよく相談することが重要です。
併用住宅の種類
- 店舗併用住宅:飲食店や雑貨店などの店舗が併用された住宅
- 医院併用住宅:動物病院やクリニックが併用された住宅
- 事務所併用住宅:オフィスが併用された住宅
- 賃貸併用住宅:居住部分とは別に賃貸スペースとしてアパートなどがあるもの
店舗兼用住宅とは?
定義と特徴
店舗兼用住宅とは、住居部分と店舗や事務所部分が一体となった建物のことです。内部で住居と店舗を行き来できる構造で、機能的にも用途上分離しがたい点が特徴です。
住宅ローンへの影響
店舗兼用住宅の場合も、居住部分のスペースの比率が大きく占めれば、住宅ローンが全額適用されるケースがあります。そうでない場合は、事業用ローンの併用が必要になる可能性があります。
「建てられる場所」の違い
店舗併用住宅と店舗兼用住宅とは、建てられる場所に制限があります。重要なポイントは建築基準法上の「用途地域」の取り扱いです。以下に解説していきます。
用途地域とは
用途地域は、都市計画法に基づいて定められる地域区分で、建築できる建物の種類や規模を規制する制度です。都市を住宅地、商業地、工業地などの用途ごとに分けることで、土地利用の適正化や住環境の保護を目的としています。
用途地域には大きく分けて13種類あり、例えば「第1種低層住居専用地域」「第2種低層住居専用地域」は主に低層住宅を中心とした静かな住宅街で、「商業地域」は商業施設やオフィスビルの集積を目的としたエリアです。
第1種低層住居専用地域は、主に低層住宅の建設を目的とした住環境保護のための用途地域です。高さや容積率が厳しく制限され、大型店舗や工場などの建築は基本的に認められません。一戸建てや低層アパートが中心で、静かで落ち着いた住環境が維持される特徴があります。
第2種低層住居専用地域も第1種と同様に低層住宅地を対象としていますが、小規模な店舗や事務所の併設が条件付きで可能です。住宅地の利便性を若干高めるための用途地域です。
店舗併用住宅を住宅街に建てるのは難しい
店舗併用住宅は、基本的に住居部分と店舗部分が独立しているため、用途地域に定められた住居専用地域に建てることが難しく、商業地域などに限定される場合があります。
一方で、店舗兼用住宅は条件が揃えば、第1種や第2種低層住居専用地域内、いわゆる静かな住宅地でも建築可能です。これは「住宅と非住宅部分が一体である」と認められるためです。用途地域により制限が異なるため、設計段階での慎重な計画が必要になります。
メリット・デメリットの比較
店舗併用住宅と店舗兼用住宅のメリット・デメリットを解説します。どちらが自分の生活スタイルにあっているのか、検討してみましょう。
店舗併用住宅のメリット
プライバシーが確保しやすい
住居部分と店舗部分が独立しているため、家族の生活空間を守りやすい。例えばエステサロンを経営している場合、店舗のお客様と家族が対面することがないので、リラックスした環境を提供することができます。
賃貸運用が可能
店舗部分を他人に貸し出すことで収益を得られます。例えば自分が事業をしなくなった場合でも、賃貸収入が見込めるのは大きなメリットです。
用途に応じた自由度
住宅部分と店舗部分が分離しているため、住宅、店舗ともに設計デザインやレイアウトに柔軟性をもたせることができます。
店舗併用住宅のデメリット
用途地域の制約
建築可能な地域が限られる場合がある。特に第1種や第2種低層住居専用地域では、店舗の建築が制限されているため店舗併用住宅を建てるのは難しいでしょう。
ローンの適用条件
住居部分の割合が建物全体に対して小さいと、住宅ローンが全額適用されません。その場合、事業ローンを併用する場合があります。
店舗兼用住宅のメリット
用途地域での優位性
住宅として認められるため、店舗の床面積や業種の制約を守れば第一種低層住居専用地域内でも建築可能です。具体的には、店舗の床面積は50平方メートル以下、美容室や学習塾などの業種になります。設計士とよく相談しましょう。
動線の効率化
住居部分と店舗部分をスムーズに行き来できるため、動線が効率化する。仕事と家事をスムーズにこなすことができるでしょう。
顧客対応に有利になる場合もある
お客様にとって親しみやすい設計が可能。例えば「赤ちゃん連れOKの家カフェ」のようなコンセプトの場合、生活感を少し感じられたほうがお客様が安心する場合もあります。
店舗兼用住宅のデメリット
賃貸が不可
「住宅」として認識されるため、店舗部分を他人に貸し出すことができません。賃貸経営を視野に入れている場合は、注意が必要です。
プライバシーの課題
住居部分と店舗部分が一体化しているため、家族の生活に影響が出る可能性がある。例えば赤ちゃんやペットがいるご家族の場合、泣き声が店舗にまで聞こえてしまい、店舗の雰囲気を損なってしまうこともあるでしょう。
まとめ
店舗併用住宅と店舗兼用住宅は、「建物内で行き来できるか」が主な違いです。また、建築基準法上の用途地域の違いも大きなポイントです。記事内であげたメリット・デメリットを見比べながら、自分のビジネスモデルや生活スタイルに合った選択をしましょう。
設計士や金融機関など、プロに相談しながら慎重に計画を進めることが大切です。本記事が、最適な住まいと店舗の選択における一助となれば幸いです。設計に関する具体的なご相談は、ぜひお気軽にお問い合わせください。