飲食店で料理の良い匂いでお客様の食欲をそそることができます。しかし同時に良い匂いでけでなく悪臭と感じられてしまうこともあります。この記事では店舗デザインの観点を踏まえた臭いの発生源から対策法までをまとめて解説します。
また、臭気対策の他にも、店舗リニューアルのポイントはこちらのカテゴリーで詳しく解説しています。ぜひこちらも合わせてご参照ください。
飲食店の臭いの発生源
まず初めに、お客様から不快に思われる臭いの発生源とは何なのでしょうか。飲食店の臭いの発生源は主に3つあります。
1.調理臭
実はお客様が不快に感じている臭いとして一番多いのが調理臭です。調理臭はお客様の食欲をそそるように思われますが、同じ匂いでも悪臭に感じる方もいるようです。
ラーメンのスープを煮込む臭いや肉を焼く煙など、調理による臭いや煙は強力な臭いを発します。特に油を使った料理の調理臭は、換気扇を通り店外へと排出されるので、苦情の原因になりやすいです。
2.排水臭
グリストラップや排水溝、側溝から漂う排水臭は厨房やお店の出入口などに臭いが集中します。掃除などの手入れを怠ると、排水口が詰まって使用済みの油や液体が流れていかずいやな臭いがします。更にはチョウバエが発生する原因にもなります…。
3.ゴミ
飲食店はどうしても生ものや残飯などの生ゴミがたくさん出てきますが、生ゴミの回収までの時間が長いと、ゴミ箱の中で腐っていやな臭いを発してしまいます。その他タバコ臭やカビの臭いなども悪臭の発生源として挙げられます。
飲食店の臭いの対策法
臭いの原因を絶つ
悪臭に対する一番の対策法は臭いの元を絶つことです。以下臭いの発生源ごとに原因を絶つ方法を紹介します。
・頻繁に換気する。
・臭いを放つ調理工程は別の場所で行う。
・グリストラップや排水溝、側溝をこまめに掃除をして清潔を保つ
・ゴミの回収までの時間を短くする。
・ゴミ置き場の掃除をする。
・ゴミの設置場所を涼しい場所にする。
掃除の徹底
客席の掃除は当たり前ですが、飲食店では厨房の細かい箇所まで清潔にしておくことが重要です。排水溝やゴミ置き場の掃除だけでなく、換気扇、ダクトも定期的に掃除しましょう。また、排水溝や換気扇、ダクトなどの設備を定期的に業者に点検してもらいましょう。
脱臭機器を設置する
空気清浄機や脱臭機、油煙除去装置などを設置しましょう。さらに脱臭機器には、排出ダクト内や排出口に取り付けるタイプのもの、油や煙に対応する油煙除去装置などさまざまな種類があります。
環境省が発行している「臭気対策マニュアル」を活用する
飲食業の方に向けて、環境省が「臭気対策マニュアル」というものを発行しています。このマニュアルでは飲食業におけるにおいの問題から具体的な臭気対策の例まで分かりやすくまとめられています。下記にて掲載内容の一例をご紹介します
業者ごとの具体的な対策
業種 | 臭気発生源 | 臭気発生状況 | 対策内容 |
焼肉店 | 客席排気 | 客席のロースターから発生する焼肉のにおいが排気ダクトから排出され、近隣住民から苦情が発生。 | 全席のロースターについて、少煙タイプの石焼システムを導入した。また、排気ダクトにフラップ装置を設置した。 |
焼肉店 | 客席・厨房排気 | 隣接する建物で焼肉店を営業する前に、近隣住民からにおいが気になるとの相談。 | 店舗営業前の相談であり,焼肉店側にも事前に同様の申立てがあったため、設計を変更し、屋根に排気口を設置した。 |
焼肉店 | 厨房排気 | 店舗の駐車場から焼肉排気を直接駐車場に排気していたため、油煙と臭気の苦情が発生。 | 排気口(地上)に前処理用グリスフィルター及び油煙除去装置(電気集塵機)を設置し、油煙を90~98%除去することで、油煙を見えないようにした。 |
焼き鳥卸業 | 厨房排気 | 加工場の排出口からの炭火焼き鳥の煙とにおいが出て、隣接するマンションの管理人からの苦情が発生。 | 加工を始めるにあたって排気ダクトの方向を換える措置をとったが、予想以上に煙や臭いが発生していたので、対策措置が終わるまで炭火による加工を中止して、排煙装置を設置した。その後、換気扇が油で目詰まりをおこしフィルターが破れているとの再度苦情があったので、換気扇の内側と外側のフィルターを高性能のものに交換した。 |
焼き鳥卸業 | 厨房排気 | 焼き鳥店から発生する煙とにおいに苦情が発生。 | 焼き鳥店から発生する大量の煙を含む臭気に対してダクト中に油煙除去装置(電気集じん機)と吸着式脱臭装置を設置し、煙(油煙)の不可視化と吸着による脱臭を行った。 |
イタリアン | 厨房排気 | 換気扇からニンニク臭が排出され、苦情が発生。 | 仕込み材料として、昼間にニンニクをオリーブ油で炒めていたが、苦情の発生しにくい時間帯をみつけ、その時間に臭気の発生する調理をするようにした。 |
ピザ | 厨房排気 | 厨房排気を煙突から排気し、ピザの臭いがするため、同一ビルの上層階住人から苦情が発生。 | スクラバー式の処理施設を設置していたが、さらにもう1基設置した。 |
中華料理 | 厨房排気 | ダクトから排出される調理臭と油煙について苦情が発生。 | 油汚れがひどいため、ダクト内の清掃を業者に依頼した。 |
ラーメン屋 | 厨房排気 | 排気口から仕込み等の調理臭が排出され、隣家からの苦情が発生。 | 建物の隙間から臭気が漏れることを防ぐための目張りを行った。さらに排出口の向きを変更し、ダクトを立ち上げる対策をした。 |
パンの具材などの製造 | 厨房排気 | 換気扇から出される調理臭に対して、近隣住民から苦情が発生。 | カレーパンなどの特ににおいの強い具材の製造については、別の場所で製造することとした。 |
ラード製造工場 | 製造排気 | ラードのにおいが漂い、近隣住民から苦情が発生。 | 県内の食肉店から油脂等を収集しているが、加工から一週間位経っているものが悪臭を発生させる。そこで古くなった原料の受け入れをやめることにした。 |
コーヒー豆の焙煎所 | 厨房排気 | 隣接するマンション住民より、珈琲豆を焙煎するにおいが洗濯物に付着したり、窓を開けておくと部屋に充満すると苦情が発生。 | 店舗内には、空調設備がないので、作業中は窓やドアを開放したままであった。そこで、「アフターバーナー」という臭気の元となる排気を燃焼させる装置を設置した。 |
うどん屋 | 排水 | うどん屋から流されている排水がにおうと複数の近隣住民から苦情が発生。 | 浄化槽の点検(月2回)、清掃(年4回)の実施。浄化槽のブロアーの増設。グリストラップの設置。浄化槽の水温管理。 |
食品製造業 | 排水 | 隣の工場で昼間糞のようなにおいがすると近隣から苦情が発生。 | 現地には円柱状の浄化槽があり上部から悪臭がもれていた。悪臭低減のため、ばっ気を30分程度増やす対策を行った。 |
居酒屋 | 排水 | 事業所の隣接側溝がにおうと苦情あり。(客席数:10席,従業員:3名,店舗面積:95m2) | 単独浄化槽しか設置していなかったため、厨房の排水は側溝にそのまま流れていた。そこで、合併浄化槽に変更し、厨房の油は適正に処理するように改善した。 |
ラーメン屋 | 排水 | 店舗建物が単独浄化槽であり、厨房等の排水が側溝に流れ,下水臭により約40m側溝の下流に位置する住民から苦情が発生。 | 隣接地に新築移転し,排水を下水道へ接続した |
海鮮料理・すし店 | 排水 | 排水口および流下の水路に堆積した汚泥から腐敗臭が発生し、水路近傍の住民から苦情が発生。(客席数:150席, 従業員:8名) | 厨房排水はグリストラップ後、店舗に隣接する水路(農業用)に直接排出されていたが、水路は水量が少ないため,晴天が続くと飲食店の排水が大半を占め、滞留すると水が腐敗し悪臭を放つようになる。しかし、発生源はテナントであり設備の変更は不可能であったため、従業員が排水口および水路を定期的に清掃するようにした。 |
鮪の加工 | ごみ | 保冷庫から収集運搬車へ鮪の残渣を移す際に、腐敗臭が漏洩し、近隣住民から苦情が発生。 | 夏期は、保冷庫の設定温度を低くするとともに、残渣の保管期間も短くした。 |
スーパーマーケット | ごみ | 空きダンボールや事業所から出るごみ等のにおいが発生。(従業員:15名, 店舗面積:450m2) | においの出るごみを倉庫内に入れることとし、においの付いたダンボール等も合わせて倉庫で保管した。また、ごみ収集後に必ず清掃し、清潔に保つようにした。 |
弁当・惣菜製造 | その他 | 弁当箱を屋外で洗浄していたため、残飯や食用油の臭いが常時発生し、近隣住民から苦情が発生。 | 対策について協議した結果、弁当箱等洗浄作業については、系列会社にて作業することにした。 |
うどんや | その他 | 灯油炊きの釜から灯油を燃やしたにおいが煙突より広がり、近隣住民から苦情が発生。 | ガス釜に変更した。 |
出典:環境省「臭気対策マニュアル」
臭いは予防することが大切
いかがでしたでしょうか。飲食店の臭いの発生源として多くを占めるのは調理臭で、その他排水臭やゴミの臭いなどが挙げられます。
飲食店での気になる臭いについては、発生してからではなく、店舗設計の段階であらかじめ予防しておくことが大切です。例えば、排水口の向きや高さを変えるだけでも臭い予防になります。排水口は周辺の住宅や建物の吸気口に直接向かないように調節すると良いでしょう。
お客様からのクレームだけでなく、従業員が働きやすい環境を作るためにも臭い対策はとても大切です。この記事で解説した解決策を参考にお店を見直してみてください。
また、こちらの記事では飲食店の内装工事費用の相場観を詳しく解説しています。厨房だけではなく、全体の費用感を抑えるためにもぜひこちらも合わせてご参照ください。