物件名 : 人形町今半 イクスピアリ店(ニンギョウチョウイマハン イクスピアリテン)
面積 : 180㎡
客席 : BOX席 7卓 ベンチ席 11卓
工期 : 計画期間 150日 施工期間130日
請負業務: デザイン設計業務、意匠制作業務
躯体構造: ―
竣工 : 2026.06.18
備考 :
明治28年の創業以来、すき焼を囲む団らんの時間を届けてきた人形町今半。舞浜イクスピアリ店の改修にあたり、総支配人が全国の設計事務所・デザイン事務所を自分の脚を使って調べ尽くしたうえで声をかけてくださったことが、私たちTOとの始まりでした。数ある選択肢のなかから見出していただいたご縁に、まずは深く感謝しています。求められていたのは、これまで積み重ねてきた老舗の価値を、どう次の時代へ手渡していくか。味とともに受け継がれてきた「記憶の温度」を、どう空間に置き換えるか——その問いから計画をはじめました。
テーマは「記憶の温度を継ぐ」。すき焼を囲む温もりと、今半が守ってきた日本の原風景を次の時代へつなぐことを軸に据えました。鍵になったのは曲線です。海に近い舞浜という土地に着想を得て、壁や間仕切りに、寄せては返す波のうねりを写しとっています。とりわけ店の奥、行き止まりになりがちな袋小路は、角を立てずやわらかく包み込む形にすることで、閉塞感のある場所を一番の特等席へと変えました。仕上げは職人の手仕事に委ねています。漆喰がまだ柔らかいうちに表面をはけで引く造形左官は、均一でない揺らぎが光を受けて柔和な表情に。瓦や土壁、漆喰の一つひとつに、「ご縁が積み重なり、末広がりに栄えていく」という願いを、州浜や麻の葉といった日本の紋様として編み込みました。
■ブランディングブックという、継承の道具
今回力を注いだのは、空間そのものだけではありません。州浜の紋、麻の葉、曲線の壁、瓦——その一つひとつに込めた意味を、現場で働く方々が「自分の言葉」で語れるよう、一冊のインナーブランディングブックにまとめました。意匠の背景を、お客様への説明書きで終わらせず、誇りのこもったおもてなしの一言へ。空間が完成したあとも物語が続いていくための、いわば手渡しの道具です。つくり手の想いが、日々の接客のなかに静かに息づいていくことを願っています。
オープンの立ち合いに伺った日のこと。会長・社長をはじめ、総支配人、担当課長、店長、そしてスタッフの皆さまから、口々に「ありがとうございました」とお声をかけていただきました。お礼を申し上げたいのは、こちらの方なのに——。お店の前では、店長やマネージャーの方々と記念撮影まで。完成した空間をともに喜び、その物語を受け取ってくださる姿に、この仕事に関わらせていただけたことの幸せを、改めて噛みしめました。
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