飲食店を開業する上で内装制限は必ず頭に入れておかなければなりません。内装制限を無視して、店舗の内装をデザインしてしまうと、一から内装作りをやり直さなければならない可能性があります。この記事では、飲食店の開業に必要な内装制限の知識を解説していきます。
また、内装制限も踏まえた、飲食店の物件探しに関しましてはこちらの記事でより詳しく解説しています。これから物件探しをご検討されている方は、必ずこちらも合わせてご参照ください。
内装制限とは?
内装制限とは、建物の火災の被害を最小限にし、入居者や利用者の命を守る法律です。「建築基準法」と「消防法」2つの法律から成り立っています。接客業務を行う下記業種が対象となり、建物の種類ごとに基準が細かく分かれています。
上記をわかりやすくまとめると、建築基準法では、火事や災害の際に、炎が拡大して避難が遅れることがないように、天井や壁材の素材などを規制しています。消防法では、火災予防や消火を目的とした警報機、消火設備の設置を義務付けています。
また、場所によっては2つの法律の他に「都市計画法」などの地域によって変わる法律も加わる可能性があります。都市計画法は自治体のウェブページで参照できるので、適切に対応していくことが大切です。
すべての特徴を解説すると膨大な量になってしまうので、今回は飲食店における内装制限を対象とします。
内装制限を守らない店舗には罰則がある
内装制限の基準をクリアしていない店舗は、建築基準法違反となり、罰せられます。そのため、店舗を建てるときは内装制限にしたがった設計になっているか確認しながら工事を進めてていかなければなりません。
とは言うものの、内装設計はプロである設計士または内装工事業者に依頼する形となるので、安心して良いでしょう。ただし、すべてを任せきりにするのではなく、お店の責任者としてお客様を迎えるオーナー様も基礎知識は必ず持っておきましょう。
建築基準法における内装制限
建築基準法における内装制限を簡単にまとめると、壁や天井の仕上げ材を燃えにくい材料にすることです。火事や災害の際に炎が拡大して避難が送れることがないように、仕上げ材に「難燃材料」「準不燃材料」「不燃材料」の使用が義務付けられています。なお「床」は制限の対象外です。
この中でも、飲食店の内装制限に関わる箇所のは、以下の10つです。飲食店を開業する上で、下記の10つのどれかに当てはまる場合は、内装制限に従わなければなりません。基準一つ一つに課せられた制限があるため、当てはまる基準に沿った制限内容を適切に守るようにしましょう。
2、耐火建築物の場合、3階以上の床面積の合計が1000㎡以上
3、準耐火建築物の場合、2階以上の床面積の合計が500㎡以上
4、それ以外の建物は床面積の合計が200㎡以上
5、階数が3以上で延べ面積が500㎡を超えるもの
6、階数が2で延べ面積が1,000㎡を超えるもの
7、階数が1で延べ面積が3,000㎡を超えるもの
8、住宅以外の建築物の火を使う設備を設けたもの
9、床面積が50㎡を超える居室で窓等開放できる部分(天井から下方80cm以内の部分に限る)の面積の合計が床面積の1/50未満のもの
10、温湿度調整を必要とする作業室等(法第28条第1項)
参照:一般社団法人日本壁装協会
飲食店の内装制限に関わる建築資材3種類(防火材料)
内装制限の対応に欠かせないのが「難燃材料」「準不燃材料」「不燃材料」の3つの材料です。3つの材料を知っておくことで、適切な材料で対処することができます。オーナ様ご自身が、施工業者にこれらを確認するケースはあまりないとは思いますが、お客様の安全を守る責任ある立場として、頭の片隅に入れておきましょう。
①難燃材料(なんねんざいりょう)
難燃材料は、国土交通大臣が認めた材料のことです。「5分間の加熱で燃焼しない」「5分間の加熱で損傷や変形をしない」「有害な煙やガスを発生させない」の3つの基準を満たしている必要があります。また、防火材料3種類の中では、一番火に弱く、加熱に耐えられる時間が最も短い材料になります。
・石膏ボード7mm以上
・難燃合板5.5mm以上
②準不燃材料(じゅんふねんざいりょう)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
「10分の加熱で燃焼しない」「10分間の加熱で損傷や変形をしない」有害な煙やガスを発生させない」の3つの基準を満たしているのが、準不燃材料です。難燃材料より加熱に強い素材と覚えておくといいでしょう。内装制限には、準不燃以上と記載されている場合も多いため、使用することが多い材料になります。
・石膏ボード9mm以上
・木毛セメント板15mm以上
・硬質木片セメント板6mm以上
・セルローズファイバー
③不燃材料(ふねんざいりょう)
防火材料の中で一番火に強いのが不燃材料です。「20分の加熱で燃焼しない」「20分の加熱で損傷や変形をしない」「有害な煙やガスを発生させない」の3つの基準を満たしているのが、不燃材料になります。不燃材料を活用することにより、建ぺい率を緩和することができるなどメリットが多くあるぜひ活用したい材料です。
・コンクリート
・瓦
・モルタル
・ガラス
・鉄
・アルミニウム
・石膏ボード12mm
・グラスウール
・ロックウール
消防法における内装制限とは
消防法も建築基準法と同様に、さまざまな設備や材料に規定を設けています。例えば、室内カーテンなどの敷物類は「防火防災対象物」の基準を満たしたモノを使用する必要があります。正しく守って、消防法の違反にならないようにしましょう。
加えて、飲食店を開業するには、「消防設備の設置」「届出書類の提出」が義務付けられています。消防署に提出しないと、消防法違反になるため注意が必要です。飲食店の収容人数や広さによって提出書類が変わってくる場合があるため、近くの消防署に確認しましょう。
・防火対象物使用開始届出書
・防火対象物工事等計画届出書
・消防用設備設置届出書
・消防計画の届出
消防設備の設置について
消防法に基づいて「消火設備」「警報設備」「避難設備」の3つの消防設備の設置が義務付けられています。個人で設置することは難しいため、店舗設計の際にデザイナーや施工管理者と相談しましょう。
①消火設備
水や消火剤を使用し、火の消火に努める機具・設備の総称です。消火設備に含まれるのは、屋内消火栓設備、 屋外消火栓設備、スプリンクラー設備、延焼防止設備などが該当します。
②警報設備
火災が起きた際、屋内外に知らせ、消防に火災を通報するために必要な報知・警報設備の総称です。自動火災報知設備 、ガス漏れ火災警報設備、漏電火災警報器、非常警報設備、 消防機関へ通報する火災報知設備などが該当します。
③避難設備
災害が起きた際、屋内の人が屋外へ避難するために使用する機具や設備の総称です。避難はしご、救助袋、緩降機、誘導灯などが該当します。
手続きや届け出が非常に多い飲食店の消防法は、こちらの記事でより詳しく専門的に解説しています。こちらも必ずご参照ください。
内装制限の緩和策
これまで様々な内装制限の項目をご紹介して参りましたが、これらの内装制限には緩和策が設けられています。すべての内装制限を遵守しようとすると、店舗デザインにかかる負担が大きく、自由な営業ができないためです。
実際の店舗設計の際は、これらの緩和策を用いながら進めていきます。3つの代表的な緩和策をご紹介します。また、こちらで紹介しきれないほど、内装制限の緩和策は沢山あります。店舗デザイナーと相談して、お店に適した緩和策を採用しましょう。
①スプリンクラー設備を導入する
最も代表的な緩和策が店舗の天井にスプリンクラーを設置することです。スプリンクラーの消化性能は高く、スプリンクラーと排煙設備が整っていれば内装制限の対象から除外されます。これにより、天井や壁に木材などを使用する事ができます。スプリンクラーの設置費用は一台あたり10万円から20万円ですが、安全とデザイン面を両立できるため、決して高くは無いでしょう。
②天井高を6メートル以上にする
床から天井までの高さを6メール以上にすると内装制限の対象になりません。この場合、窓などの排煙設備が無くてもOKです。煙は白から上に上がるため、天井の高さが確保されていれば床付近は安全とみなされます。
③天井の素材を不燃素材にする
火は下から上に燃え広がるため天井の素材を不燃材料(準不燃材料でもOK)で仕上げれば、壁や造作に木材を使用することができます。ただし、不燃材料の使用だけでは安全性が確保できないとされ、以下の条件が追加されます。
内装制限に適切に対応し、飲食店の開業をスムーズに進めましょう
内装制限を無視して飲食店の開業をしてしまうと、罰せられる可能性があります。内装制限に適切に対応し、飲食店の開業をスムーズに進めましょう。
私たちTOは、店舗設計を得意とするデザイン事務所です。お客様が店舗に込める想いを汲み取り、そのストーリーを具現化するお手伝いをしています。店舗デザインに関して不安なことやお困りごとがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
内装制限以外にも、ウィズコロナ時代の店舗改装リニューアルや新規出店の記事やコラムはこちらでまとめています。ぜひこちらも合わせてご参照ください。